9月始業の是非を考える。第3の案は?




ここ数日で、「9月入学・始業」を求める機運が高まっています。

新型コロナウイルスの収束は未だ見通しが立ちません。「3月いっぱいの休校」も、5月6日の緊急事態宣言後までに延びました。そして休校も5月いっぱいまでに延長した自治体もある反面、休校をしていない自治体もあるなと、自治体によって大きな差があります。

仮に6月から授業再開できたとしても(だいぶ甘い見通しですが)、3月までに授業を終わらせるとして、

  • 土曜日も授業をする
  • 1日の授業時間を増やす
  • 夏休み、冬休みも減らす、なくす
  • 宿題やオンラインでの課題を増やす
  • 行事を減らす、中止する

等の対応が必要です。それでも学習が3月までに終わるかどうかは疑問が残ります。

現在休校している自治体の6割は授業再開の見通しが立っていない中、ここ数日「9月入学、始業」の機運が高まっています。

9月始業を求める機運の高まりの経過

9月入学、始業を訴える声は以前からありましたが、この1ヶ月でその機運が高まったのには、次のような流れがあります。

4月1日 高校生の「始まりはどんどん遅くなるのに、終点は変わってくれません」「学期の始まりをずらすチャンス」というツィートが話題になり、9万以上の「いいね」が集まる

4月上旬 署名サイト「change.org」に、「秋学期制度の導入を!!」という署名を高校生が立ち上げ、15000名近い署名が集まる

4月24日 萩生田文部科学大臣が記者会見で「9月入学も選択肢の1つ」と述べる

4月28日 宮城県の村井知事を中心に、全国17の県知事がオンライン会議を行い、「9月入学制」の導入を求め、29日の全国知事会で提案することとした

4月29日 全国知事会で、9月入学制に関する国民的な議論をするよう提案する提言を出した。

4月29日 衆議院予算委員会で安倍総理が「前広に様々な選択肢を検討していきたい」と答弁する

9月29日・30日 新聞ワイドショーなどで、9 月入学・始業が一斉に取り上げられた。

メリット

9月始業・入学は以前東京大学が導入を検討したように、以前から根強い賛成論があったものの、見送られてきた経緯ががあります。
ここ1ヶ月でその機運が高まってきたことは、このまま休校が続けば、

  • 例え土曜授業を導入したり長期休業を減らしたりしても授業日数の確保が難しい
  • 公立学校のオンライン授業が5%しか実施されず学校を閉鎖しながらの授業が難しい

ことが最も大きな要因です。

9月入学・始業にした場合のメリットには、次のことが挙げられます。

授業時間の確保・学力の担保

上述したとおり、今のままの体制で3月に学期末を迎えた場合、未履修の学習内容が出てくるのは確実です。また、年度内に学習を終わられようとした場合、かなりの詰め込み授業をせざるを得ず、新学習指導要領の理念に反します。
子どもの学力を保証し、学習時間を確保し、「主体的・対話的で深い学び」を実現するためには、来年3月に年度が終わるのではなく、9月始業、7月終業にした方がよいという考えです。

国際標準に併せる

世界では多くの国が9月始業です。日本のように4月始業の国はインドの他数カ国で、とても少数派です。
海外への留学、海外の学校・学生との交流、海外への就職、海外の学生の日本への就職等を考えた場合、国際標準である9月入学・始業に合わせた方がよいという考えになります。
約10年前に東京大学が9月入学への移行を検討した一番の理由は、海外から教員や留学生を取り込みやすくするためです。

受験が夏になる

秋に入学するということは、受験が夏になります。
現在の冬の受験では、インフルエンザの流行や、降雪による交通機関の乱れなどの問題がありますが、受験が夏になることによりこれらの問題が解消されます。

デメリット

それでは、9月入学・始業のデメリットにはどのようなものがあるでしょうか。

会計年度と差が生じる

日本では会計年度は4月から3月になっています。そのため、学校の予算も、人事も4月を起点にしています。
明治の中頃までは日本の学校も秋入学だったのですが、会計年度が4月になったため、学校の入学も4月になりました。
もし9月入学・始業にするとしたら、会計年度と半年ずれる予算配置や人事異動とどのように整合を付けるのかということを解決する必要があります。

就職の時期と差が生じる

現在は、3月卒業4月入学が一般的です。通年採用の企業が増えてきているとはいえ、4月採用の企業が大半です。
夏に学校を卒業して4月に就職するまでの半年間をどうするか、検討が必要です。

入学、進学が半年遅くなる

国際的に、入学の時期は早く、義務教育の年数は長くなる傾向があります。オランダでは4歳から、フランスでは(幼稚園が義務教育がなったため)3歳からが義務教育の開始年齢です。
義務教育の開始年齢を半年遅らせることは、国際的な流れに逆行することになります。

長年の習慣や伝統

日本では3月卒業、4月入学・就職が長年の習慣や伝統になっています。桜の季節と入学やがセットになっている方も多いのではないでしょうか。「春は出会いと門出の季節」という日本人の長年の生活習慣を変えることに抵抗感を覚える人が多数います。

デメリットはメリットになる

以前は強い抵抗があった9月入学ですが、上記のような理由で理由で機運が高まっています。長年続いた制度を再検討するときには多くの課題を解決しないといけないのは当然のことです。
しかし、「課題」と考えられていることは、別の視点で見てみると「メリット」になるのではないでしょうか。。

就職の時期との差は、通年採用や学生の自由を促す

夏に卒業した後に半年のブランクを挟み就職になることをデメリットと捉える意見もありますが、反面大学生活の後半が就活に追われてしまう現状の問題点を解消する契機にもなります。
現状では大学3年の後半から大学4年の前半は、就活に追われてしまい、学業は二の次になってしまいます。しかし夏に卒業になれば、(4月入社が変わらなければ)その後に就活をするという流れになり、大学生活は学業に専念できるでしょう。
そして、4月採用を止め、通年採用の企業が増える可能性があります。


ヨーロッパでは、大学を卒業した後すぐに就職するのは少数で、長期の旅行(19世紀に貴族が行った大周遊旅行が期限)やボランティアをすることが一般的になっています。


夏に学校を卒業した後、すぐに就職する、長期の旅行や社会貢献に取り組む、資格を取得する等多様なオプションが生まれることにより、学生にも、企業にも多様な選択、柔軟な対応ができるようになるのではないでしょうか。

今年に限り年度を1年半にする

今検討されていることは、「9月入学・始業、7月卒業・修了」ですが、案として今年度に限り、「9月入学・始業、次年度の3月に卒業・修了」とすることも考えられます。「全員1年留年」と言い換えることもできます。


今年度から実施される新学習指導要領で唄われている「主体的、対話的で深い学び」を実現するためには、子ども自ら考え課題をもつこと、問題解決の方法を知ること、場所を問わず協働して学ぶことが求められます。残念なことに今の休校中に行われている学習は(リモート学習がなされている所でも)、教師の課題の提示とドリルが中心で、新指導要領の理念とは真逆になっています。


また、プログラミング教育やコンピュータの活用も、現場では全く進んでいません。オンライン授業を実現するためにGIGAスクール構想を前倒しして今年度中に情報端末を1人1台整備することが決まりましたが、今の体制のまま整備されても活用されずに終わってしまいます。


今年度末を来年3月から再来年3月に伸ばすことにより、新学習指導要領への丁寧な移行、情報端末の協働的な学びへの活用が期待できます。

子どもの生活や学習を第一に

以前から9月入学のメリットとして「グローバルスタンダード」「留学生の増加」という視点で語られてきました。しかし、これらの視点の導入は子ども本位の視点とは言えず、早急な実施を求めるものではありません。

今考えなければいけないことは、「子どもの生活や学習をどのように守るか」ということです。子どもの安全を守るには、拙速な休校解除を求めるべきではありません。しかし、休校が長引けば長引くほど、学習機会が奪われます。

上記の「今年度を1年半にする」という案は、「次年度は前の学年と同じ学年になる」という問題が生じますが、子どもの学習を充実させる案とも言えます。

議論を尽くし、しかも先延ばしせず、知恵を出し合う必要があります。





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