学校は( 特に公立学校は)公共性と公正・公平を重んじているので、使える用語に制約があります。そのため、外部に出す文書(保護者に配るお手紙など)や、公式に記録する文書にとても気を遣います。
その中には、学校外の人から見たら「えっ、これってダメなの」と思ってしまう言葉もたくさんあります。
目次
「クレパス」「クーピー」はダメ。なぜなら・・・
小学生が使う代表的な筆記用具に「クレパス」「クーピー」がありますが、保護者への手紙に「クレパス(クーピー)を買って持たせてください。」と書いてはいけません。
「クレパス」「クーピー」は「株式会社さくらクレパス」の登録商標なので、このように書いてしまうと、特定の会社の商品を買ってくるように指定することになってしまうのです。
クレバス・・・・・パス(オイルパステル)
クーピー・・・・・芯だけの色鉛筆
などの一般名詞を使わないといけないのです。。
しかし、商品名の方が有名で一般名詞のでは伝わらないこともあります。入学説明会や懇談会のように直接保護者と話す機会の時は、「いわゆるクレパスのことです。」と口頭で補足して説明するのです。
商品名が一般名称化していて、本来の一般名称に言い換えが必要なものの代表例を以下に挙げます。
商品名 | 商標を持っている企業 | 一般名称 |
クレパス | さくらクレパス | パス(オイルパステル) |
クーピー | さくらクレパス | 芯だけの色鉛筆 |
セロテープ | ニチバン | セロハンテープ |
マジック | 内田洋行 | 油性ペン |
サビオ バンドエイド カットバン など | 阿蘇製薬(昔はニチバン→ライオン) ジョンソン・エンド・ジョンソン 祐徳薬品 | 絆創膏 |
宅急便 | ヤマト運輸 | 宅配便 |
商品名が地域ごとに固有名詞化している場合も多いので、口頭で伝える場合と、文集で伝える場合の区別をしっかりつける必要があるのです。
人権に配慮するのは当然。「啓蒙」はあり?
差別用語を使わないのは当然として、人権に配慮する、読んだ人が不快にならない言葉遣いをすることが大切です。
「インターネットの適切な使い方」「交通ルールやマナー」などについて、学校の情報を家庭や地域に伝え、情報共有しながら協力していただくことはとても大切なことです。
しかし、そのような時に、学校から家庭・地域に「啓蒙」すると言ってはいけません。大問題に発展する可能性があります。
啓蒙は
無知蒙昧な状態を啓発して教え導くこと
広辞苑第五版
という意味です。伝える相手を「無知で愚かな人」としているので、保護者や地域に対して学校がとても上から見下していると捉えられてしまいます。
ですので、「啓蒙」ではなく「啓発」を使います。
啓発は
知識をひらきおこし理解を深めること
広辞苑第五版
という意味です。
啓発の場合、「学校が先に知った知識や情報を伝え、協力を促す」という意味合いが強くなります。
「知っていることを教える」といい意味で「啓蒙」を使ってしまう場合もありますが、それは誤用です。言葉の意味は正しく理解し、誤解を与えないよう使いたいものです。
ドッヂボール?ドッジボール?ドッチボール?どっち??
どれでもいいように感じるかもしれませんが、これには決まりがあります。
一般財団法人日本ドッジボール協会 の名称を見れば分かるように「ドッジボール」が正しい表記です。
「ドッジボール」の英語表記は dodge ball です。
つまり「dodge(ドッジ)するボール」という意味です。
dodgeのカタカナ表記は「ドッジ」なので、「ドッジボール」なのだと分かります。
dodge は「さける、よける、身をかわす」という意味です。
ドッジボールができた頃は、今のようにボールを取ることはできず、よけるしかできないルールでした(日本にドッジホールが伝わってきた頃のことは、大河ドラマ「いだてん」14話でもやってましたね)。
アメリカメジャージャーリーグの「ロサンゼルス ドジャース」も、語源は一緒です。「ドッジボール」と「ドジャース」の語源が同じとは、面白いですね。
Dodgers は、 dodge(ドッジ)する人たち →よける人たち、かわす人たち という意味です。
ドジャースは、今は本拠地がロサンゼルスですが、以前はニューヨークのブルックリン地区でした(ブルックリン・ドジャース)。
19世紀末にブルックリン地区に路面電車(トロリー)が開通しました。
トロリーをひらりとかわしながら生活するブルックリン市民のことを Trolley Dodgers(トロリー・ドジャース)と呼んでいたことから、チーム名が「ドジャース」になったとのことです。
保健の正式用語は難しい
児童生徒が欠席した時、保健簿や指導要録にその理由を書きます。
その時、一般的に使われている名称ではなく、正式名称を使わないといけないのです。代表的なものは次のようなものです。
一般的な名称 | 正式名称 |
インフルエンザ | 流行性感冒 |
おたふくかぜ | 流行性耳下垂涎 |
プール熱 | 咽頭結膜炎 |
はしか | 麻疹 |
病気で休んだ場合は「病欠」ですが、それ以外の理由(お出かけなど)で休んだ場合は「事故欠」です。事故にあって休んだのではありません。事故欠の場合、理由の大半は「家事都合」になります。「家事」と言っても、炊事・洗濯などという意味ではないのです。
転校ってどういう意味?
一般的に「転校生が来る」「学校を転校する」と言いますが、学校用語に「転校」はありません。「転校は」「学校を去って別の学校に入ること」を意味するので、この言葉だと、去ったのか入ったのか分からないからです。
学校用語だと
- 転出・・・・学校を去ること
- 転入・・・・学校に入ること
と言います。
学校では、一般には使われない用語もありますが、人権や商標に抵触しないなど、より気を使った言葉の使い方をするのです。
「細かいことを気にする」「堅苦しい」と思うかもしれませんが、それだけ学校は地域・社会・保護者に気を配り、「適切な」言葉を使おうとしていると思っていただきたいです。
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