2020年5月11日「HUFFPOST」より
休校の長期化に伴い、ICTの活用やオンライン授業の必要性が問われていますが、効果的に運用できていないのが実情です。
現状でのオンライン授業の実態や、効果的なICTの使い方、長期的なICT活用の利点について、freedu代表の友人、国際大学クローバル・コミュニケーションセンター(GLOCOM)准教授の豊福晋平先生がインタビューに答えているので、ここに紹介します。
目次
オンライン授業には2種類ある
オンライン授業には「遠隔授業」「動画配信」の2種類ある
オンライン授業を始めた学校の多くは、授業動画を撮影し配信する方向性になっていますが、上手くいっているとは言えない状況です。
オンライン会議システムなどで先生が授業をして児童生徒がライブで参加する「遠隔授業」、録画してある動画を児童生徒がそれぞれ見る「動画配信」があるでしょう。自治体によっては、クラウドで情報をやりとりする、ということを「オンライン授業」と呼んでいるところもあります。自治体の発表や報道に触れるとき、この違いを認識しておかなければ、正しく情報を理解できません。
動画配信はプロには叶わない
今は動画を含め、様々なオンラインの教材があふれています。先生たちが慣れない動画を作っても、お金をかけてプロが作ったものに勝つのは難しいでしょう。子どもが長い間見ていられるとは思えません。
GIGAスクールまで待てない
4年かけて全小中学校に1人1台端末と高速回線を実現する「GIGAスクール」を今年度までに前倒して整備する方向になっています。しかし、それでも今求められているオンライン授業には間に合わないでしょう。
家庭環境の差は大きいです。文科省もそれは分かっていて、「GIGAスクール構想」として4年かけて整備しようとしていた「児童生徒1人1台の端末整備」を1年でやろうとしています。ただ、すでに手を挙げた自治体でも配備に数ヶ月はかかるでしょう。新型コロナウイルス感染症が収束している可能性すらあります。
整備されるまで、どうICTを活用するか。何を諦めて何を大切にするのかを明確にする必要があります。
今必要なのは、子どもたちとの「関係づくり」
動画配信は、プロには叶いません。日本の学校教育で大切にしていることは、「教えること」よりも、子どもとの関係性を重視し、生活をベースに育てること、子どもと教師・子ども相互の関係性を重視することです。
そのためのツールとして、ICTの活用を提唱しています。
月は通常、学級にとって肝となる「関係づくり」の時期。それによって安定した土台ができて初めて、授業がスムーズに行えます。でも今はほとんど学校と児童生徒が連絡を取れず、担任の顔すら見たことがないという子もいるでしょう。これでは学校が再開したとしても、学級運営は困難です。
情報伝達という、授業の役割のうちのひとつは、プリントを使ったり、世の中にあるコンテンツを活用したりできる。ならば今学校がやるべきなのは、関係づくりの部分ではないでしょうか。つまり、毎日連絡を取れるよう仕組みを整えたり、生活のリズムを整える手助けをしたり、フィードバックをして子どもたちの動機付けをしたりすることです。
オンライン会議システムなどを使って長時間画面に縛り付けておく必要はありません。たとえば朝の5分、親のスマホを借りて、高校生なら自分のスマホを使って、「朝の会」に参加する。このくらいならば、通信量もそこまで多くはかかりませんし、家庭内で使うタイミングを融通することもできるでしょう。
たった5分でも参加していない子や画像をオフにしている子は把握できますし、そこからフォローするようなコミュニケーションを取ることは可能です。子どもたちに学習への動機付けをするような言葉がけもできる。情報伝達よりもむしろ、子どもを支えるという姿勢が重要です。
情報端末の「文具化」を
豊福先生は、以前から「情報端末の文具化」を提唱しています。情報端末を教師が使う場面や時間を指定して使わせるのではなく、鉛筆や定規などの文房具のように、子どもが必要に応じて当たり前のように使えるものにするべきだ、という考えです。
日本の教育現場はこれまで「パソコンやスマートフォンは仕事や遊びに使うもの。学校の勉強は手書きでやらなければ」という考え方が主流でした。
家庭や企業ではデジタルシフトが起こって扱う情報量が数百倍になり、情報を扱えることは生きていく上で武器になる時代になった。それでも学校ではスマホやPCの利用についてネガティブに捉え続け、利用を控えさせる指導をし、もちろんICTの活用も進まなかった。
結果として、学校と家庭や企業の間に深刻なデジタル・デバイド(情報格差)が起こっていました。
GIGAスクール構想も前倒しされることが決まりましたし、子どもが情報端末を自分の道具としてしっかりと使えるようにしなくてはいけないという意識は広がったと思います。
強調したいのは、情報端末は「先生が教えるために使う道具」ではなく、「子どもたちが文房具のように使うもの」だということです。情報にアクセスできる機会が飛躍的に増えている現代、「知識や情報を持っている」ということ以上に、「得た知識や情報を使って何をするか」が重要になってきています。情報端末は、それを実現するためのツールという位置付けです。
しかしPISAの結果をみると、日本の子どもたちは情報端末の使い方が非常に内向きだと分かります。チャットやゲームなどのエンターテインメントは楽しむけれど、外に向けたアピールには使えていないんです。
なので1人1台の端末を手にした時、どれだけノートや鉛筆のような「文房具」として持続的に使いながら、学びの成果を社会に示すことに重点を置いた授業展開ができるかが非常に重要です。
情報端末を活用してできることは、実は非常に幅広いです。
調べた結果や考えたことを文章にまとめてブログにする、クラス内で成果物を共有しコメントし合う、協力して動画を作るなど、クリエイティブな取り組みに繋げる方法はいくらでもあります。
日常的に授業でICTを活用していれば、より生活に直結した問題解決にも活かせます。例えば生徒会活動で議事録を共有するとか、情報を集めて分析し、生徒に呼びかけるためのポスターや文章を作ることだってできる。こうした具体的な「出口」のある学びは教室での学習より面白いですよね。
それらは、社会で私たちが仕事で使っているスキルにもつながっています。子どもの頃からそうしたスキルに触れることは、子どもたちの可能性を広げることに繋がると考えています。
日本の教育におけるICTの活用は20年以上他国に遅れを取っています。子どもが分具としてICTを当たり前のように、日常的に使えるように、スキルを身に付けられる指導を進めつつ、活用を見守る必要があります。
「“オンライン授業”よりまずは、5分の朝の会を。専門家が考える、休校中に学校がすべきこと」2020年5月11日 HUFFPOSTの記事はこちら
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