しばしばネットで「かけ算の問題で、式のかける数とかけられる数を反対に書いたら×にされた」ことが話題になります。
- 「順番を反対にすると意味が変わってくるので間違い」
- 「かけられる数とかける数を反対にしても答えは変わらないので×はおかしい」
学習指導要領では、算数科の解説編で「10 × 4は、10が4つあることから、40になる」としていますが、順序については規定していません。
しかし、小学校の算数の教科書は全て順序を定められて書かれています。
それはどうしてなのでしょうか。
学校では「教科書では」順序を決めて教えている理由を、指導者の視点から、解説していきます。
※この記事は、かけ算の順序を決めて指導している理由を説明しているものです。指導の是非を論じているわけではないことをご理解ください。
1年生から6年生までの、学習の系統
算数と数学の違いですが、数学は法則に基づいて抽象的に考えることに対し、算数は
- 具体的な場面を考える
- 系統的な積み重ねを大切にする
ことを大切にします。つまり、1年生から6年生まで、同じ原理で積み重ねて行かないと、指導の一貫性が崩れてしまい、教えにくくなるのです。
かけ算の場合
1年生 たし算を学ぶ
2年生 たしざんの繰り返しがかけ算(2+2+2+2 =2×4)、九九
3年生 九九より大きな数のかけ算、筆算の方法、倍の計算、交換法則
4年生 小数のかけ算(小数×整数)、分配法則、結合法則
5年生 小数のかけ算(小数×小数)、割合、速さ
6年生 分数のかけ算、比
という系統で学習します。以前の学習が理解している前提で次の学習に進むので、同様のルール(法則)で学ぶことが大切です。
ポイントとなるのは、2年生で「同じ数のたし算がかけ算」と学習することです。つまり
6を4回たす、6+6+6+6を6×4と表す
と学ぶので、その考えと同じ法則で今後も学ぶことが必要になるのです。
そして、かけられる数(被乗数)とかける数(乗数)の関係を
1つ分の数(単位量)×いくつ分(倍)=全部の数(量)
と学習し、おはじきやアレイ図で表します。
3年生以上になると、このことをテープ図を数直線図などで表します。
5年生になると、割合や速度を学習します。
くらべられる量÷もとにする量=割合
距離÷時間=速さ
という公式を覚えている方も多いと思いますが、その根拠は
もとにする量×割合=くらべられる量 (単位量×倍=求める量)
速さ×時間=距離 (単位時間あたりの距離×時間=全体の距離)
だからです。公式だけ覚えても理解したとは言えません。
2年生の頃から学習している「かけ算の決まり」は数値や状況が変わっても変わらないから、系統的に指導ができるのです。
言葉の意味
A×Bの場合
Aは、かけられる数(被乗数)
Bは、かける数(乗数)
です。
順番が逆になったら意味が変わる、と指導しています。
1つの箱にドーナツが3つ入っています。
その箱が5つあります。
ドーナツは何個あるでしょうか。
という問題の場合、式は3×5になります。
被乗数と乗数を反対にして(交換法則)に5×3しても答えは15こで変わりませんが、
「5×3だと、1箱に5こ入っていて、3箱という意味だよ」と指導します。
3X5の場合、乗数と被乗数の関係は
5は3にかける
3は5にかけられる
ことになります。
「かけられる数」と「かける数」を反対にしたら、つまり「○○る」と「○○られる」を反対にしたら意味が変わるのは、次の例を見れば分かるでしょう
この絵を描いて説明するのですが、この絵は
① 人が肉を食べる
② 肉が人を食べる
③ 肉を食べる、人が
のどれでしょう。
もちろん①の「人が肉を食べる」です。
つまり、肉は「食べられる」人は「食べる」です。
もし、「「○○る」と「○○られる」を逆に捉えてしまうと
②肉が人を食べる
になってしまいます。
肉は「食べる」人は「食べられる」になってしまうので、そのことを言うと子どもたちは
こわーい!!
大変!!
と叫びます。
①と③は、言葉の順番は違いますが、同じ意味です。
しかし、単純に「数字の順番にかける」と覚えている子どもは
かける数×かけられる数 にしてしまいます。
子どもたちは
- 先に書かれている数をかけられる数にする
- 大きい数から小さい数を割る
- かけ算の答えは大きくなる
- わり算の答えは小さくなる
ととらえがちです。
「計算の順番には意味がある」「問題の状況と言葉の意味を考える」ためにも、「かけられる数」と「かける数」の違いと順序の意味について知っておくと、理解が確実になるのです。
算数と数学の関係
円周を求める公式を、小学校では、直径×円周率(半径×2×円周率)
と学ぶのに対し、中学校では、2πr(2×円周率×半径)と学びます。
計算の順番が違います。
小学校の場合、「単位量×倍=求める数」という法則に基づいて公式にしているのに対し、
中学校は、「乗法の式は、定数を先に、変数を後に書く」という決まりに基づいているからです。
仮に「数学では2πrなのだから、小学校もこの順番で計算すべきだ」ということになったら、今までの指導の系統から外れてしまうので、子どもは混乱してしまうでしょう。
もちろん、「交換法則を利用した方が楽に計算できる」ときは、それを利用することは「計算のくふう」として推奨されています。
算数は「生活をイメージして考える」ので、
- 系統的に学習する
- 言葉の状況を理解して、生活に当てはめて考える
- 工夫して、楽に計算する
ことを大切にして指導しているのです。
※2021年11月に実際の授業に即して内容を一部変更しました。